認知症の中核症状とは
認知症とは、簡単に言うと、脳が壊れて、知能が無くなる病気だ。
生まれてこの方、積み重ねてきた経験や知識、知恵や技術は、全て脳内にある。
たとえば前頭葉は、自己コントロールの司令塔だ。
物事を比較し、損得を秤にかけたりして、新しいことを始めたり、悪い習慣をやめようとする。
脳の真ん中にある海馬には、記憶を司る役目があり、様々な情報を側頭葉に書き込んだり側頭葉から様々な記憶を引き出して、前頭葉に情報を伝える。
側頭葉は様々な記憶を保存する、言わば図書館のような部分で、必要な情報を海馬に送る。
後頭葉は目で見た景色を分析し、耳で聞いた音や言葉を分析し、それをまとめて前頭葉に送る。
頭頂葉は自分がどこにいるのか、視空間認識を行って道を探す。
こういう風に脳は様々な複雑な作業をあちこちで分業しているわけだ。
なので認知症で脳が壊れると、壊れた部分にあった記憶や、壊れた部分が担っていた役目を果たせなくなってしまう。
アルツハイマー病では、海馬や側頭葉が壊れて萎縮し、新しくモノを覚えられなくなり、過去数年の記憶も消えていく。
レビー小体型認知症では、大脳皮質が全般的に冒され、幻覚が見えたり妄想がヒドくなるし、手足がこわばって転倒しやすくなる。
前頭側頭葉変性症では、前頭葉が壊れて萎縮するので、習慣になっていることしかできなくなり、自制心がなくなって我慢ができなくなる。
脳血管性認知症では、脳梗塞や脳出血が起こった場所によって、様々な「できないこと」が現れる。
ただしこれらは認知症の「中核症状」で、厄介なのは、ここから派生する周辺症状だ。
周辺症状BPSDとは
認知症では、患者さん本人に起こる症状を、中核(ちゅうかく)症状という。
たとえばアルツハイマー病では、
- 記憶障害
- 見当識(けんとうしき)障害
- 思考・判断力の低下(無関心)
モノを覚えることが難しくなり、記憶や知識が消えていく(記憶障害)。
自分が今いる場所がどこで、今、何年何月何日で、目の前の人が誰なのか分からなくなる、見当識(けんとうしき)の障害。
そして思考・判断力の低下。
これらの中核症状は、患者自身が苦しんでいる症状だ。
一方、身内や介護者たちが困るのが「BPSD」と呼ばれる患者の様々な行動だ。
BPSDとは、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略で、「認知症に伴う行動および心理症状」と訳される。
たとえばアルツハイマー病では、ほぼ半数の患者が、妄想に基づく行動をする。
その中で一番よくあるのが、「物盗られ妄想」らしい。
これは記憶障害から起こるもので、自分でどこかに置いておいた物が、どうしても見つからなくなって、誰かが盗ったと思い込むパターンだ。
また、見当識から起こるBPSDが、夜間徘徊(はいかい)だ。
日中、一人で過ごすことが多いと、昼夜逆転が起こって、夜に出かけようとする。
ところが場所に対する見当識が衰えて、家に戻ってこられなくなってしまう。
昼間なら家に戻ってこれる患者も、夜になると戻ってこれなくなるから、家族も患者の夜の散歩につきあわざるを得ない。
こういう風に、患者に起こった症状によって、家族がいろいろ振り回されてしまうのが、認知症の厄介なところだということらしい。