クリューヴァー・ビューシー症候群
認知症で厄介な症状として、危険なことを平気でやろうとしたり、何でもかんでも口に入れようとしたり、性欲が異常に高まる、と言うのがある。
これは脳の扁桃体(へんとうたい)の周辺部分に問題があるときに、現れると考えられる症状だ。
扁桃体は、アーモンドの形をした器官で、記憶を司るとされる「海馬」の端にあり、「視床下部」につながっている。
扁桃体はに左右一対あるが、位置としては、目の後ろ側、こめかみの奥といった感じか。
これが壊れると、様々な特徴的な行動が目立つようになる。
この症状を、研究者2人の名前を取って、クリューヴァー・ビューシー症候群(Kluver-Bucy syndrome)と呼ぶが、次のような特徴を持っている。
クリューヴァー・ビューシー症候群の特徴
- 感情の鈍麻、無関心、過剰反応
- 視覚失認(見たモノが何か分からない)
- 異食・口唇傾向(なんでも口に入れてしまう)
- 恐怖心の低下(危険な物に平気で触れようとする)
- 異常性欲(露骨でむき出しの性欲)
そしてその後の様々な研究によって、左右両方の扁桃体とその周辺が傷むと、このクリューヴァー・ビューシー症候群が出ると言うことが分かってきた。
そして扁桃体の働きに対する研究が進み、扁桃体周辺が「恐怖心」に大きく関係してることが分かった。
恐怖症と扁桃体障害
脳の側頭葉の奥にある扁桃体は、情動に関わる器官だとされている。
情動というのは簡単に言うと、感情が動くって事だけれど、一番の情動は「恐怖」だ。
我々は恐怖を避けることによって、自分の生命を守っているので、扁桃体がちゃんと働かないと、いろんな問題が起こってしまう。
クリューヴァー・ビューシー症候群で、何でもかんでも口に入れてしまったり、危険なモノに触れてしまうなんて事は、目の前のモノが何か分からない(失認)か、あるいは恐怖心が起こらないからだろう。
認知症の場合は扁桃体の活動が衰えて、その結果、感情が鈍くなったり、恐怖心によって行動が抑えられなくなる。
一方、扁桃体の活動が活発すぎると、恐怖心を異常に感じる。
これが「恐怖症」や「パニック障害」で、目に入るモノや聞くものの多くに、強い恐怖を感じて動けなくなるらしい。
認知症の場合は、扁桃体の働きが鈍るのが問題だが、逆に扁桃体が過敏になるのも問題らしい。
ただし扁桃体は「恐怖心」を引き起こすが、扁桃体が働いていないとしても、PTSDなどのパニックは起こるらしい。
扁桃体が機能しなくなると、恐怖心は感じなくなるけれど、身体は危険に対して反応する。
これは扁桃体障害を持つ患者に、パニック障害を引き起こしやすい高濃度炭酸ガスを吸引してもらう実験で、パニックを起こす割合が健常者と変わらなかったという。
扁桃体が関わっている病気は山ほどあるようだが、残念ながら薬で症状を抑えるしかないらしい。
クリューヴァー・ビューシー症候群も、介護者やヘルパーの努力では解決できず、薬物療法をやってみるしかないようだ。