BPSD(行動・心理症状)
認知症は脳が壊れる病気だ。
脳の壊れた部分によって、様々な障害が出て苦しむ。
ただ認知症が厄介なのは、患者本人が苦しむだけでなく、世話をする身内やヘルパーなど、身近な者にも負担がかかることだ。
そこで認知症では患者本人の症状と、そこから生まれる様々な行動や心理を、分けて考えている。
患者本人の症状のことをを「中核症状」と呼び、中核症状から派生して起こる様々な行動や心理を「BPSD(行動・心理症状)」と呼ぶ。
なぜこういう区別が必要なのかというと、周囲の者に認知症の知識があるだけで、介護者の負担が大きく減らせるからだ。
認知症のBPSDの知識を持っていると、患者がなぜこういう行動に出るのか、患者がなぜそういうことを言い出すのか、大まかなことが分かって冷静でいられる。
ところが認知症のBPSD知識が無いと、患者の行動や言動の理由が分からず、腹を立てたりイライラしたりしてしまう。
患者は患者で、やろうとすることを、やらせてもらえないから暴れたり叫んだりする。
介護者は介護者で、どうして患者が自分の言うことを聞かないか分からず、感情的になったり絶望したりする。
そうやって介護者はへとへとに疲れ果て、自殺未遂を起こしたりするわけだ。
認知症患者は妄想したり、幻視・幻覚を見て行動するもんだ、と言うことを知っているだけでも、かなり患者に対する対処は変わるだろう。
嫁が財布や預金通帳を盗んだ
アルツハイマー病では、ほぼ半数の患者が、妄想に基づく行動をするという。
妄想に基づく行動というのは、簡単に言うと「言いがかり」だ。
一番よくある言いがかりパターンは、患者が介護してくれる人に対し「預金通帳(金)を盗んだ」などと攻撃することだという。
これは患者が自分の財布や預金通帳のしまい場所を忘れ、いくら探しても見つからないので、身近にいる嫁やヘルパーなどが、盗んだのだという風に思い込むらしい。
病気になって一番大事なのは、生活費だから、お金がないと真っ青だ。
そこで必死になって金を探すのだが、一番世話になっている人間に対して、「オマエ、私の金を取っただろう?」と疑い始めるから始末に負えない。
毎日毎日、世話をしているのに、突然こんなことを言われて疑われたら、ホントにたまったもんじゃないね。
そこで腹を立てて怒鳴ったり、逆にどうしていいのか分からずオロオロすると、さらに患者は疑いを深めてしまう。
しかし予め、認知症になったら、この台詞を、いつか言うものなのだと分かっていれば、態度も変わってくる。
そのときにどう対処するかを学んでおれば、こういうことを言われても冷静でいられる。
患者は様々な妄想をするだろうが、激しく訴えてくるパターンは限られてるので、それを知っておくだけでも、かなり変わるだろう。