脳のダークエネルギー
認知症や脳の話題で、近年注目されているのが、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)だ。
この名付け親は、ワシントン大学の、マーカス・レイクル教授なのだが、あるとき脳のエネルギーに疑問を持った。
というのも、我々の脳には何に使われているのか全く分かっていない消費エネルギーがあったのだ。
もう少し詳しく書くと、脳が一日に使うエネルギーは、400キロカロリー前後である。
そのうち脳の細胞の修復などのメンテナンスに使われるのが20%。
そして頭を使う時、たとえばモノを考えたり、人と会話したり、パソコンを打ったり、文字を書いたりするのに使われるのは、エネルギーの3%程度でしかない。
となるとそれ以外にまだ、脳には70%以上のエネルギーが残っていることになる。
この70%エネルギーは、何の活動に使われているのか?そこでレイクル教授は、脳の使途不明のエネルギーを「脳のダークエネルギー」と呼んで、「何もしていない時の脳」の観察を始めた。
何かをしているときの脳は、もちろんエネルギーを使う。
しかし何もしていない時の脳も、何らかの作業をしていて、エネルギーを使ってるかもってことだ。
そして脳内の血流の動きを画像化するfMRI(機能的核磁共鳴画像法)で観察すると、頭を休めているのにもかかわらず、複数の脳の領域が活動しているのに気づいた。
しかもこの複数の領域は、頭を使いだすと活動が止まり、頭を休めると動き出すのだった。
レイクル教授は、この脳の活動は、休んでいるのではなく何かをやっているのだと考え、ボンヤリしているときに同時に動き出す部分をデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と名付けた。
さらに脳が使うエネルギーの70%以上が、このDMNの活動で使われていることを示した。
レイクル教授は、2001年にこの考えを発表したが、当時は論文の掲載すら拒否されたという。
というのも頭を使っているときより、ボンヤリと休んでいる時の方が、20倍も多くのエネルギーを使っているなんて、にわかには信じがたい話だったからだ。
デフォルト・モード・ネットワーク(安静時脳活動)
脳の働きで近年注目されているのが、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)だ。
デフォルト・モード・ネットワークとは、前頭葉内側部、頭頂葉内側部など複数の領域が活発化する活動だ。
このDMNの活動は、脳が消費するエネルギーのうち、なんと70%も使うという。
しかもDMNの活動は、頭を使っているときは止まっていて、頭を使わなくなると活発になるという。
頭を使ったあと、ボンヤリしているとき、脳は休んでいるのかと思ったら、決して休んでいるわけではないらしい。
ボンヤリしている時間帯というのは、頭を使っているときより、5%ほど活動は落ちているが、脳自体は活発に動いているらしい。
となると、頭をひねっている時間より、ボンヤリしている時間の方がはるかに長いので、脳が使うエネルギーの70%がDMNで消費されるのも当然といえば当然か。
ではDMN領域が活発になっている時、脳内では一体何が行われているのか?それは空想だったり、昔のことを思い出したり、自分の行動や言動について反省したり、他人の気持ちを想像してみたり、ということらしい。
「ああそういえば、○○だったな」「あれって、どうだったっけ」「さっきの人、機嫌悪そうだったな」等々、、そうやって頭の中でいろんな事が、浮かんでは消えていくわけだ。
これによって、いろんな情報を整理し直して、次の活動に備えると言うことらしい。
さらにアルツハイマー病患者の脳では、このDMN領域の萎縮が見られ、DMN活動が鈍くなっているという。
なのでDMN活動の鈍化が、認知症の見当識障害の原因だと考える研究者もいるようだね。