夜間徘徊にも目的がある
認知症のBPSD(行動・心理症状)、次は「夜間徘徊(はいかい)」だ。
夜間徘徊とは、その名の通り、夜に街をウロウロ歩き回ることで、英語で言うとnight-walkingだ。
認知症患者が、なぜ夜に歩き回るのかはよく分からないが、本人には何らかの目的があって、どうしても出かけないといけないらしい。
たとえばある認知症患者さんは、家にいても夜になるとソワソワし始め、「そろそろ家に帰らなきゃ」といって、慌てて外に出ようとするらしい。
患者さん本人にとっては、今いる場所が自分の家ではなく、家に帰ってすべきことがあるらしい。
なので夜が近づくにつれて、気が気でなくなってきて、家族や介護者を振り切るように家を飛び出すわけだ。
他にも「仕事に行く」と言って、家から出る人もいるらしい。
アルツハイマー病が進むにつれて、ここ最近の近時記憶だけでなく、ここ何十年の遠隔記憶が消える。
そのため息子や娘に引き取られても、自分が引っ越したという記憶が無い。
そこで人生のどこかで住んだ場所に、夜になると帰ろうとするって事らしい。
それは一つ前の家かも知れないし、もう一つ前の家かも知れない。
ひょっとしたら結婚前とか、子供の頃に住んでいた家かも知れない。
自分の家として認識している場所に、「帰らなきゃ」といって行こうとするわけだ。
ただアルツハイマー病だと診断されて、家に引き取った身内にしてみれば、たまったもんじゃないね。
せっかく苦労して引き取ったのに「ここは自分の家じゃない」と、飛び出していくわけだから。
患者の言うことにいちいち反応するのは逆効果
夜になると、多くの人はは眠くなる。
これは昼間に活動しているからだ。
昼間に身体と頭を動かすから、それを休ませようとして眠くなる。
一方、認知症の患者さんは、昼間はあまり活動しないことが多い。
というのも意欲障害が起こっていて、何か新しいことを始めようという、やる気が起こってこないのだ。
ボケ防止・ボケ回復法などでも、昼間に散歩することは重要で、毎日20分から1時間は外を歩かないと、脳の使い方が偏ってしまって、正常に動かなくなるらしい。
なので認知症になって、ずっと家に閉じこもっていると、夜に寝る必要性を感じなくなる。
そして逆に不眠になり、さらに「夜間せん妄」が起こりやすくなる。
せん妄というのは、意識障害が起こって、自分が今どこにいるのか分からなくなり、興奮したり落ち着きがなくなったり、多動になったりする状態だ。
つまり訳の分からないことを言って、家を飛び出そうとするわけだね。
なので夜間徘徊の対処法としては、昼間にとにかく散歩させて、疲れさせる。
出かけようとする時刻を調べて、その前に話しかけたりして、気を紛らわせる。
訳の分からないことを言い出しても、言ったことをそのままオウム返しして、「ああ~なんですか」などと返して、患者の言ったことをなぞる。
患者さんの言葉に反応して、本人のやりたいことを阻止するのはダメで、そうなると感情的になりやすい。
感情的なやりとりをすると、悪い記憶だけなぜか残るので、さらに介護がしにくくなるらしい。